迷 宮 旅 行 記

長距離のバス待つ君の人生はさておき旅はまだ先がある

タスマニア〈第2日〉

【→ シドニータスマニア


オーストラリア大陸が見えてきたころに日が昇った。


朝はオムレツ、ソーセージ、ビーンズ、ポテト。これもうまい。


シドニー着は朝8時(現地時間)。10時間のフライト。けっこう長かったが、旅の始まりなのであまり疲れもなし。


オーストラリアに入国。電子ビザ。パスポートの紙面には入国スタンプだけが残ることになる。


預けたキャリーバッグを受け取り、さて問題の荷物検査。入国者が行列している。バッグを開けて調べられている人も多い。食品の匂いもたちこめる。オーストラリアは肉、卵、乳製品すべて持ち込みが禁止されているのだ。その成分が入っているだけでもダメと言う。今回タスマニアではキャンピングカーを借り自炊もするため、食料をたくさん持ってきた。買ったのに持ち込みできないと知って泣く泣く置いてきたものもある(コンソメスープ、カレールー、チャーハンの元など)

しかし実際はすこぶるスムーズ。「食品あり」の申告用紙を渡し係官の質問に「ライス、パスタ、ソイソース」とだけ答えたら、荷物のチェックもなく通ることができた。こんなことなら内緒でもっと持ってくればよかったか…。(とはいえ、あとからわかったが、スーパーに寄ればたいていの食品は買えるのだった)


カンタスの窓口を探して移動し、国内線に乗り換える手続き。キャリーバッグを再び預ける。そして両替。クレジットカードの直接キャッシングが楽でレートも良いと聞いていたので、それを優先。キャッシングできるATMは空港内にあった。(市街地にはいたるところにあった)


本を機内に置いてきたかも、と同行者が言う。カンタスの事務所に掛けあっていたら、デイバッグに入っているとわかった。ちなみに本は『さくらももこの大冒険』。


メモリースティックタイプの接続器具による無線インターネットの契約をしてきた。空港内で試すとうまくつながった。(すぐ脇には無料インターネットもあったが) ともあれメールのチェック。仕事のことで返事を待っているのだが、まだだった。


タスマニア行きの飛行機は午後の便。それまでシドニー市内を見てくることにする。空港から中心街に特別列車が通っている。これがおそろしく高かった。10分余り乗るだけなのに15ドルあまり(1ドル80円台)。2階建てだったので2階に座ったがほとんど地下を走った。どことなく薄汚れて暗いが、乗り心地は悪くなかった。


中心街の少し先、フェリーの発着するサーキュラー・キーというところで下車。フェリーはあちこちに出ているが、近場の対岸まで往復することにした。


ゆったりと広い船内。人は少なくがらんとしている。


良い天気。オペラハウスとハーバー・ブリッジがよく見えた。

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ほんの十数分で到着。


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動物園以外なにもないが、海岸に沿った遊歩道を歩いた。


30分後には帰りのフェリー。デッキでふたたびシドニーを眺める。ハーバーブリッジの鉄橋は人が登れるそうで、よく見ると、糸くずほどの人群れが、アーチの上を歩いていた。


フェリーを降り、ロックスを散歩。初夏の港町。日射しは明るく木々の緑は美しく、行き交う人の表情も開放的にみえた。ベンチではカモメも羽を休めている。


シドニー最古の家という「カドマンの家」。


保税倉庫だった建物を利用したというアーガイル・デパートメント・ストアを覗く。


この界隈、しゃれたセンスの人気スポットのようで、日本でいえば横浜の山手あたりか。


アーガイル・カットというトンネルを通る。かつての囚人労働者が粗末な道具だけで岩盤を切り出して掘ったと、地球の歩き方にはある。


その先にはホーリー・トリニティ・チャーチ。


さらに、チャーミングな住宅やホテルが続く。面白いデザインのアパートもあった。


何か食べようかと思ったが、15ドルはかかりそうだ。日本より高い? 東京や横浜の繁華街ならそれくらいか。


ホバート行きの飛行機の時間が近づいた。列車より安い方法がないかツーリスト・インフォメーションで尋ねたところ、バスは少し安いが時間が読めないとのことなので、やはり列車を使う。

ところがぼんやりしていて、途中で乗り換えミスをしてしまった。どうする? とにかく降りてタクシーだ。シドンハムとかいう駅だった。駅の人も親切で、とにかく道路に出て、さらに地元の人にも尋ねながら、あまり来ないタクシーをどうにか拾い、空港に向かった。ドライバーとちょっと会話。しかし英語がうまく聞き取れない。それ以上にこっちの英語が伝わらない。淋しい。それ以上に困ってしまう。ちなみにタクシーは20ドルくらいだった。


空港に着いたのは13時45分くらい。14時15分発で、ちょうど搭乗開始の時刻だった。タスマニアの最大都市ホバート行き。けっきょく食べる余裕がなかったので、機内食の軽食がありがたかった。



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窓の下にタスマニアの島の形が見えてきた。地図の通りの形。「あそこがフレシネ国立公園か」とわかる。島全体の大きさも実感できる。


ホバートには16時ごろ到着。タラップを降りる。小さな空港だ。夏時間でもあり夕方という感じはまったくしない。空は青く晴れ渡り、日射しは「熱い」。


空港を出てすぐの建物にレンタカー会社がいくつも事務所を構えていた。ホームページの情報どおりだ。申し込んでいた会社のオフィスを訪ねる。手続きはスムーズ。大きな地図ももらう。外の駐車場に予約した小型キャンピングカーが置いてあった。キャンパーバンと呼ばれるタイプ。情報どおりトヨタハイエースを改造したもの。ひととおり説明を聞いたあと、運転席に乗り込み、発車。実質的な旅の始まりだ。


空港からまずホバート市街の方角へ。

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途中 車内でインターネット。つながったのはうれしかったが、やはり仕事のメールは来ていない。しかたなくスカイプで会社に電話した。それで事情はわかったが、このあと車が幹線道路を離れると、無線のネットは徐々に通じなくなるはず。困った。ともあれ、先を急ごう。



この大きな橋を渡ったあと、右折し、河川沿いの道路(1号線)を北西に進んだ。


マニュアル車だが、運転しているうちに慣れてきた。天気も良く気持ちいい。河川には土手がなく水辺は湿地のようにもみえる。

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ホバートを離れるにつれ、道路の左右はなだらかな草原のような風景ばかりになっていった。車もあまり走っていない。


道路は1号線から10号線に入り西に向かう。その先にはセントクレア湖がある。きょうはその近くまでいって夜を過ごしたい。街があったらスーパーに寄って食料も買いたい。仕事のメールも気になるのでネットにもつなぎたい。


ニュー・ノーフォークという町まで来た。

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そこにはスーパーがあるとレンタカー会社の人は言っていた。が、あちこち探しても見つからない。商店街がそもそもなく、住宅もまばら。


なだらかな地形で遮るものも何もないので、太陽はいつまでも沈まない。日がまるきり真横から差し続けた。


オーストラリアではキャンピングカーで旅する人がとても多く、そのためのキャンピングパークがどこにでもあると聞いてきた。そこでは電気や水を車に補給でき、炊事や宿泊の設備も整っているという。ところが、今のところそれらしきものに出会わない。無線ネットもついにつながらなくなった。ともあれ先に行くしかない。


ハミルトンという町まで来た。

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日は落ち、だいぶ暗くなってきた。カフェや宿泊できそうな場所がちらほら。気のきいた外観の一軒に立ち寄った。きれいな喫茶室があり、無線のネットはやはりダメだったが、店のパソコンがインターネットにつながっていたのでメールチェック。ただし待っていた返事はやはりなし。う〜む。明日以降はネットも電話ももっと難しくなる。


結局スーパーはどこにもなかった。これは想定外。そのカフェに冷凍した食べ物が置いてあり温めてテイクアウトできるというので、それを頼んだ。そうでもしないと食いっぱぐれそうだ。やはり高くて、ビーフストロガノフが20ドル、スパゲッティが15ドル。車で少し移動したあとで食べた。ところが、これがじつに味気ない、というかまずい。がっかり。


加えて大変なことが発覚。車内備え付けキッチンの水道からなぜか水が出ないのだ。ガスは使えるし、やかんはあるし、マグカップもお茶の葉も日本から持ってきているのに。なんということだ。そういえばタスマニアに来てから水分はぜんぜん取っていない。本当にまいった。

日は完全に暮れている。どこまで進んでも人里がなく人っ子ひとりいない。道路に灯りはまったくなく対向車すらほとんどない。孤立、疲労、デッドエンド的…

しかし嘆いていても仕方ない。気を取り直し、夜道ではあるが行けるところまで行こう。気分を変えるためカーオーディオで音楽をかけた。計19枚のCDを作ってきた。


真っ暗な道路をひたすら走り続けた。ゆるやかな起伏やカーブ。それがだんだん大きくなっていく。ライトが照らす周囲の景色は草原から森林へと移り変わった。動物が道路を横切ると聞いていたが、そのとおりだった。路上に黒いものが見えたかと思うとライトに驚いてすばやく走り去る。運転しているこっちこそびっくりだ。ワラビーやウォンバットだろうか。目撃回数は山を進むにつれて増えた。ときどき動かないままの黒い影がある。何だろうと思ったが、車に轢かれた後の動物らしい(翌朝からはその可哀想な姿がはっきりわかった)。


道はさらに曲がりくねり、脇道もいくつかあって迷うところも出てきた。


そんなところに発電所があった。深夜であるのとまったく誰もいないのとで、やっぱりなんだか不気味だった。


ふと気がつくと、星々があまりに大きい。地平線のすぐそばまであまりにも明るい。こんな夜空は初めてだ。ぎょっとするほどだった。スフィアン・スティーヴンスの「近所の丘に異星人が降りてきて…」という歌がある。それを思い出した。ちょうどその音源も持ってきていたので、すぐさまカーオーディオで聴いた。
イリノイ


この夜も、そのあとの夜も、そんな星空を何度か見上げ、美しさにあきれた。オリオン座が大きくみえるが、そのほかは北半球とは違っているように感じられる。


時間は前後するが、この日は日没のすぐ後に最も細い月も出ていた。その向きは北半球とは逆だった(つまり夕方に沈む三日月なのに右上が欠けている)。


深夜の山道ドライブは果てしなく続き、とうとうセントクレア湖まで来てしまった。もう1時くらいだった。セントクレア湖は、タスマニア最大の自然遺産クレイドルマウンテン国立公園の南端に当たる。

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湖に通じる脇道をだいぶ行くと、キャラバンパークを備えた規模の大きな宿泊施設があった。駐車場もある。下調べのとおりだ。ところが、あたり一帯完全に寝静まっていた。黙って車を停めて眠るのもはばかられた。


そこでもとの幹線道路まで引き返し、車を停めて休む場所を探した。道路脇に広い空き地があったのでそこにした。

野宿だから当然だが、水と電気は補給できない。電気の補給がないから、備え付けの電子レンジ、電気ポット、電気調理器も使えない。テレビも映らない。冷蔵庫と室内の電灯は補給なしでも使えるので、それは非常に助かった。ちなみにガスは使えた。

キッチンの水が出なかった件は、車内にあった説明書を読んで「スイッチを押さないと水は出ない」ということがわかった。そのスイッチがどれなのかもしばらくわからず苦労は続いたが、最終的には解決した。

ところが、もう1つ問題が…。デジカメとパソコンを充電するために持ってきたはずの変換プラグが、荷物をいくら探しても見つからない! これこそ最大の危機…。まあどこかで誰かに借りるとするか…

後部の座席を取り外しベッドを整えた。シーツと薄いブランケット。その上に分厚い寝袋を広げる。180センチの長さと書いてあったはずだが、けっこう狭い。欧米人の体格だときついだろう。真っ暗な中で横たわる。


いきなり遠くまで来たなあ。家を出たのは18日の夕方4時ごろだっけ。今はもう日付がかわって20日、2時か3時。長かった。外は星が見えるばかり。

















【take it easy.】